安乗フグ

「あのりふぐ」ブランド

2004年1月22日、朝日新聞

阿児・安乗の漁協・旅館

三重県阿児町安乗(あのり)の漁協や旅館組合などが、地元で水揚げした天然トラフグを「あのりふぐ」のブランドで売り出そうと奮闘中だ。2003年8月には「あのりふぐ協議会」を設立。フグを目当てに訪れる冬の客も増えるなか、協議会は取扱店を認定するなど、安心して食べられる取り組みを進めている。

あのりふぐとは

「あのりふぐ」とは、遠州灘から熊野灘の外海や伊勢湾で取れ、三重県の阿児町安乗漁協管内で水揚げした700グラム以上の天然トラフグ。商標登録されている。あのりふぐ協議会は、志摩の国漁協安乗支所、安乗岬や阿児町の旅館組合、飲食店組合など9団体で構成。

全漁獲高の約2割

現在、水揚げされたフグの5割は集散地の山口県下関市まで出荷されている。だが、かつて1割にも満たなかった地元の消費量は、ブランド化の試みもあって全漁獲高の約2割にまで上がってきた。

協議会会長で漁師の浅井利一さん(58)は「輸送費がかからない分、大阪などより料理を安く提供できるし、取引単価も上がった」と話す。

関西で観光キャンペーン

関西への観光キャンペーンなどが効果を発揮して、訪れた客は1999年度の96人が2003年度は1678人まで増えた。2004年度は2003年10月から12月までの期間中、多い旅館で575人が利用し、売上高が例年の倍に増えたところもあった。

「以前は海水浴で夏が忙しかったが、今はフグのおかげで冬の方が忙しい」。安乗岬旅館組合の組合長で安乗シーサイドホテル代表の迫間正さん(64)は手ごたえを感じている。

丸勢水産がフグ加工品の通信販売

インターネットや郵便小包で通信販売を始めた仲買問屋もある。阿児町地区の丸勢水産は、調理場や冷蔵庫などを約1千万円かけて整備、2002年から刺し身や鍋用に加工したフグの通販を始めた。

2003年末は贈答品の注文が多く入り、1日約100匹をさばいた。和食感覚で食べられるおかず風の「フグまんじゅう」の開発にも取り組んでおり、社長の片山勝仁さん(36)は「ほかにないことをやっていきたい」と話している。

真空パックで食材確保

一方、知名度が上がるにつれ、「あのりふぐ」の確保も大変になってきた。フグ漁は例年10月からの3カ月間を漁期と定め、そのうちの15日ほどしか海に出ない。食材を確保するため、約30万円の真空パックを作る機械や水槽などを導入した旅館も少なくない。

認定店は阿児、志摩、磯部、浜島に44

現在、「あのりふぐ」を食べられる認定店は阿児、志摩、磯部、浜島の4町に44店。きちんとした味を楽しんでもらうため、協議会設立とともに制度をつくった。店同士もフグの保存など情報交換をしている。

約10万匹の稚魚放流

安乗地区は戦前からフグ漁があったが、1989年の大量水揚げを機に盛んになった。乱獲による資源の枯渇を防ぐため、5月ごろ、約10万匹の稚魚放流もしている。

志摩・伊勢湾の安乗フグ

2005年2月25日、朝日新聞

冬場のフグ漁

真冬の深夜、安乗漁港(三重県志摩市阿児町)から、48隻の漁船が凍(い)て付く波しぶきを上げて出漁した。目当ては、「安乗フグ」と呼ばれる人気上昇中の天然トラフグだ。近くは伊勢湾口、遠くは静岡県舞阪沖の遠州灘まで2~3時間かけて出向き、はえ縄を仕掛ける。

大漁だと1日200匹

池田吉長さん(60)と京子さん(57)は、夫婦で漁に出かけて25年になる。冬場のフグ漁は10年ほど前から始めた。

京子さんは「雪の中で漁をすることもある。フグをいけすで生かしながら持ち帰るのにも気を遣うけど、知名度が上がってやりがいがある」。大漁だと200匹ほど取れる日もあるという。

志摩に1万人の観光客

志摩の国漁協安乗支所によると、今季の水揚げは12月末までで約17トンと、昨シーズンの半分ほど。ただ、体長約60センチ、重さ約2キロ前後の良型が多く、キロ当たりの浜値は平均1万3千~1万4千円と、国内でもほぼ最高値。8割以上が地元で消費されるといい、冬場だけで1万人を超す観光客が、志摩市内で舌鼓を打つ。

仲買業者・丸勢水産は「うれしい悲鳴」

「今季は、仕入れの見通しが立たないと、泣く泣く予約を断る旅館もあった。知名度アップで需給バランスが崩れ、うれしい悲鳴です」と、仲買業者「丸勢水産」の片山勝仁社長(37)が話す。

下関産ブランド

安乗のフグ漁は昭和初期には始まっていたものの、すべて下関に出荷し、「下関産」のブランド名で全国に流通していた。

料理人の認定試験

「地元で売り出す手はないか」と、漁師や仲買、旅館経営者らが1999年ごろからブランド化へ向けた協議を始めた。2003年8月には生産者から末端業者までが一堂に会して「安乗ふぐ協議会」ができ、フグ取扱者の認定試験をパスする料理人も続々と誕生した。

商標登録

協議会設立と同時に商標登録も受け、協議会が認定した志摩市内の旅館や料亭約50店だけが、「安乗フグ」の取扱店を名乗ることができる。

地域づくり総務大臣表彰

こうした「地産地消」の取り組みが評価され、2005年1月には、協議会と、後押ししてきた志摩市が「地域づくり総務大臣表彰」を受けた。

乱獲を防ぐ

乱獲を防ぐ独自の工夫も光る。漁師らは自己負担で稚魚を放流する一方、漁場で競合する愛知・静岡両県の漁師との間で協定を結び、漁期を10月~2月末の約150日間に限定。さらに出漁日を25回前後とし、700グラム以下の稚魚が取れても放流している。天気予報や相場をにらみつつ、互いに出漁日の調整も怠らない。

産卵地は安乗沖と神島沖

伊勢湾から遠州灘にかけて生息するフグの産卵地は安乗沖と神島沖という。協議会事務局の安田康治さん(42)は「漁師も料理人も競い合って、地元に『ふく』を呼んでいる。ふるさとの財産を大事に守り、次世代につなげたい」と話している。

薄造りの刺し身「てっさ」

フグ鍋「てっちり」や揚げ物

安乗漁港近くで割烹(かっぽう)旅館を営む仲野浩史さん(44)によると、安乗フグの一番の魅力は「冬の海でもまれ、ふっくらとしているのに身が引き締まっていること」。

薄造りの刺し身「てっさ」のコリコリした歯ごたえと、フグ鍋「てっちり」や揚げ物のねっとりした粘り具合は、フグを数日前にしめた方が増すといい、予約を受けるとすぐ仕込みに取りかかる。

表面に焼き色を付けた「霜降り」には、みそ味ベースのコクのある特製ポン酢を添える。産卵期を控えた1月ごろからは、白子焼きの苦みとほのかな甘みも楽しめる。

丸勢水産あのりふぐ(naoyakiyohar5)

2005年10月28日、読売新聞

「福鍋セット」「福刺身セット」

三重県伊勢志摩地域に水揚げされるイセエビやアワビ、タイなどの魚介類を、関西や関東方面の市場に出荷している。

自慢の商品は、トラフグの地元ブランド“あのりふぐ“を調理した「福鍋セット」に「福刺身セット」。「あのりふぐ取り扱い」の認定を受けている片山勝仁社長(37)が「一般家庭で手軽に味わってもらおう」と、2002年から始め、クール便で届けている。

いわしの勢州煮
すずき茶そばロール

10月から来年2月ごろまでの発送だが、「福刺身セット」の利用客から「さっぱりしておいしかった。2005年の冬は福鍋セットと一緒に注文します」と好評。生ものを扱うので、作り置きができない。注文がたくさんあったときは、徹夜での作業となる。宿泊施設などに卸す、スズキを使った「すずき茶そばロール」や素焼きにしたイワシを独自の味付けで煮た「いわしの勢州煮」も人気。片山社長は「今後も地元産魚介類を使っての新しい商品開発をめざしたい」と意欲的だ。(naoyakiyohar5)

会社名
丸勢水産有限会社
場所
三重県志摩市阿児町
創業
1992年創業
従業員
11人
業務内容
水産食品加工、鮮魚卸業

ふぐ料理店「横丁まるせい」が伊勢にオープン

2013年7月10日、毎日新聞

伊勢志摩地方の海の幸

三重県伊勢市の伊勢神宮内宮前のおかげ横丁に2013年7月9日、ふぐ料理店「横丁まるせい」と、すし店「横丁君家」がオープンした。伊勢志摩地方の海の幸が味わえる店。2013年7月末から始まる神宮の御白石持行事や2013年10月の遷御の儀に向け、門前町はますますにぎわいを増しそうだ。これで横丁の店舗は56になった。

天然トラフグ「あのりふぐ」

横丁まるせいは志摩市特産の天然トラフグ「あのりふぐ」料理が売り物。漁期以外は、三陸沖の「しょうさいふぐ」を使い、一年中フグ料理を提供できるようにしたという。

横丁君家では、新鮮な魚介類を使った本格にぎりずしが1500円から味わえる。

「妻入り」「きざみ囲い」の建築様式

建物は、伊勢ならではの「妻入り」「きざみ囲い」の建築様式。鬼瓦にフグやヒラメ、イカなどをあしらっている。いずれも2階建て。

女将

横丁まるせいの女将(おかみ)、片山むつみさんは、「おいしい福(ふぐ)を存分に味わって」と話している。